サクヤオオカミ プロジェクト
大阪・関西万博会場内の大阪ヘルスケアパビリオンにて、トークイベントが2025年7月23日水曜日に決定!→詳しくはこちら
アーティストからの制作だよりを「NEWS&イベント」に不定期更新しています。→詳しくはこちら
アーティストの言葉 鴻池朋子
この仕事の依頼を受けた時、すでに大阪万博はその開催是非が問われ、逆風が吹き荒れている最中でした。すぐに閃いたのは、形はなんであろうと、まずは構造的にコンクリートで基礎を打ったりして地球に恒久的に固定しないものにしようと思いました。人間の動物的な身体性に即した、柔軟に移動できるモバイル的なものにしたい。そして、ここからが重要なのですが、万博という祭が終わった後も、全国各地へ散らばって人々の中に入っていくものがいいと思いました。鑑賞するだけものではなく、しっかりと手触りできる、人々に愛され鍛えられて生活の中で強度を持っていくような作品、そういうものが必要だと直感的に感じました。
逆風には慣れていて、風の抵抗はいつも新しいエネルギーを起こしてくれます。
当初、東京に住む私と大阪のサクヤヒメさんたちとの間には、万博への思いや認識に温度差がありました。初めてお目にかかった時に、まず私は万博が世間ではどのように思われているのか、という一般的なことを飾らずお話ししました。また、サクヤヒメさんの企画書で気になったのが「女性の」という言葉が頻繁に出てくることでした。私は「女性の」と限定された時点でその他が排除されていくようで、毎回とても窮屈な感じがし、その言葉が使われるたびに、皆さんのいう「女性の」とは何のことか?と率直にお聞きしました。そして改めて皆んなで考えました。そうやって話すうちに、自分達の功績を何かに残したいとか、また女性に限定したことを表したいわけでもなく、むしろ、何か新しい自分達の言葉、伝達手段、メディアのようなものを切実に求めていることに気づきました。
それから、私は彼女らの仕事場を見学させていただいたり、また彼女らも各地で行われる私の展覧会へ、忙しい仕事の合間を縫って遠くまで足を運んでくださったり、違うもの同士、双方を理解するということに時間をかけていきました。合間合間で美味しい大阪のご飯をいただきながら、熱心におしゃべりしました。そして、そういうことに時間を惜しまず、これまでも誰に対しても当たり前に接してきた方々なのだ、ということを感じました。それに近くにいると温かいのです、何かのエネルギーが。
でも、こういうことは、なかなか形に見えてこない。

「双頭の狼ベンチ」赤2024年
例えばこれまでならば、かつてはお金を出し合って功労者の銅像を建てたり、象徴的なモニュメントなどを彫刻家につくってもらうようなことが一般的でした。目で見える大きなものです。全国、至る所にそのようなパブリックアートが残っています。でも、そんなことではない。そんな表現はちっとも彼女らの動物的な動きの面白さとは関係がありません。もっと目で見えないものです。しかもサクヤヒメさんは、皆んなそれぞれ違う職種の個々の有志で、そこに利害関係が一切入り込まなく、けれどもしっかりと繋がっている。自分たちを大きな形で表現することが重要なのではなく、見えなくとも、気づかれなくとも、必要な時にそれが人々の間で機能している、というところが面白く本質的なところなのです。土壌を分解するミミズのように。これは社会の構造的なところに、作品が機能していかなければならないと思いました。そして、目で見ているだけのようなものではなく、手で触れて接触できるもの、作品本体へ実際に入り込めるようなもの、がいいと思いました。
私は、白い「スノーウルフ」という椅子をつくりました。違う方向を向いている2匹の狼が、相互に絡まり合っていて、座ると人が狼に包まれたようになります。子どもにとっては遊具のような大きさの二人掛けのベンチです。白いスノーウルフは複数あって、それぞれ全部違う絵を描いていきます。そして万博終了後にこれらは、サクヤヒメさんたちによって全国各地へと運ばれます。そこにどうしても作品が必要だ、という場所へ届けてもらうのです。 私は数年前より、自身の作品を収蔵庫へ入れずに一般家庭に保管展示してもらう「メディシン・インフラ」という実験的な活動を始めました。メディシンとは薬や薬草のことです。目的に向かって一気に到達するような便利で急進的なインフラではなく、回り道して草を踏みながらも自分の身体に合った小道を見つけ出していく、そんなインフラ。観光地でもなく誰も知らない場所であっても、必要とされる場所に作品を置く。そうすることで、何か新しいインフラが見えてこないかと思っています。

「双頭の狼ベンチ」白2024年

「スノーウルフ」制作風景2 2025年
その活動を利用して、サクヤヒメさんたちに「スノーウルフ」を各地へ連れ出してもらうことにしました。今頃、皆さんで、どこに設置しようかとワクワクと話し合っている頃かと思います。また、「スノーウルフ」は贈与でも恒久設置でもなく、ずっと貸し出し。誰も作品を所有しません。ある場所の展示が一段落を迎えたら、また次に作品を必要とする人たちの元へと作品を移動します。作品と共に過ごした人は、また次の誰かのために作品を送り出す。何かが満ち溢れてきます。大切なもの、なかなか形に見えてこない大事なものをつなぐ。そういうサクヤヒメさんたちの活動を、狼という自然界の形が見守ります。「スノーウルフ」もたくさんの人の手に触れられ生活に鍛えられタフになっていくことでしょう。いつか汚れて黒ずんだ時には、またしっかりとその躯体に絵を描きに出かけたいと思います。
地球環境が大きな変化と問題を抱える中、これまでの社会の枠組みや既存のシステムが機能せず、場当たり的な処置ばかりで根本的な対応ができなくなってきています。人間中心的な思考が、私たち人間を含む自然全てのバランスを崩壊させてしまっているからです。今、そういう厳しい場面に立たされ、改めて物をつくる、作品をつくる、ということを、小さな自分自身の足元に立って考えます。でも一人で考えても埒が空きません。また流れは一気には変えられません。つくり始める前に、その大前提にあるものをしっかり組み直す必要がありそうです。それには、様々な人々が性差や職業や民族など、人間によって分類された境界を超えて、手を取りあうことが必須です。
サクヤヒメというまるでメディシン(薬草)のような生き物たちが、これから時間をかけて作品を運び、人々を繋げ、悩み、語り合い、各地を元気にしていくのではないかと思います。
2025年2月 埼玉県高麗アトリエにて 鴻池朋子
*「サクヤオオカミ プロジェクト」を含む、「鴻池朋子 メディシン・インフラ・プロジェクト」のサイトはこちらです。
https://www.medicineinfrastructureproject.com/私たちサクヤヒメが、作品を通して伝えていくこと

「双頭の狼ベンチ」青 2024年
個性豊かなオオカミの群れが万博会場に集い、サクヤヒメの想いを伝えます。1頭1頭異なる毛並みを持ち、触ることも座ることもできるオオカミは、思わず戯れたくなるような可愛らしさと、双頭や六本足という異形の神々しさを湛えています。人間の手が描く素朴な線や造形のフォルムには、近未来的な万博会場(大阪ヘルスケアパビリオン)の中で、柔らかく豊に際立ちます。広場で休息しようと集まる人々がオオカミと出会い、人間とオオカミの両方が協力することで完成する作品です。
このプロジェクトは、アートでありながらベンチとして人々が小さな休息をとれるよう構想されています。作品に人が触れ座ることで、人間とオオカミの両方が揃い、双方が協力することで初めて完成します。ここに出てくる「人間」「オオカミ」「休息」は大切なキーワードです。
「人間」は、これまでの人間中心的な視点、それによって出来上がった社会を表し、「オオカミ」は自然界の生きもの全体を表し、そしてこれら「人間」と「オオカミ」の間には、今、「休息」が必要です。
「休息」には、急進的な情報が交差し息切れする社会において、本来の自分の呼吸をゆっくりと取り戻すための場所、という空間と時間を伴った意味が含まれています。「人間」と「オオカミ(自然界)」が分離せずに共に「休息」する場所、には人間中心的な思考を解きほぐし排除されてきた様々な森羅万象への人間の意識を、復活させるきっかけが潜んでいます。
また、それぞれのオオカミには、二次元コードがありウェブサイトにつながっています。そこには、万博終了後オオカミたちが移動する場所の情報が掲載されています。それらの場所は、一人一人のサクヤヒメが考える、Well Beingな世界を実現するために、大切にしなければならない人やことを想起させる場所となる予定です。
女性活躍推進センター、老人施設、学校等々、様々な場所が考えられ、ウェブサイトには、そうした対象への想いも一緒に掲載する予定です。オオカミの群れは、サクヤヒメの思いを次の方・場所へと繋げてくれるアート作品であり、バトンでもあるのです。
このプロジェクトは、
「人々が休息し、自分の呼吸を取り戻す場所」として機能するとともに、
「多様性のある調和した社会」を表現し、作品に付与された二次元コード(行先)が
「誰もがwell-beingな未来社会」「女性活躍」への想いを表現します。
そして、万博終了を次への活動のスタートとし、サクヤヒメの想いを各地へ広げていきます。 新しい皆さまと関係を結び、新たな思いを生みながら続いていくプロジェクトです。
アーティスト紹介
鴻池 朋⼦こうのいけ ともこ
1960年秋田県生まれ。大学卒業後玩具のデザインを経て1998年頃よりアニメーションや絵本を発表。各地でサイトスペシフィックな活動を通して、芸術の根源的な問い直しを続けている。
主な個展
2006年 | 「第0章」大原美術館 |
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2009年 | 「インタートラベラー神話と遊ぶ人」東京オペラシティギャラリー/鹿児島県霧島アートの森美術館 |
2011年 | 「獣の皮を被り 草の編み物」ギャラリーヒュンダイ(韓国) |
2015年 | 「根源的暴力」神奈川県民ホール/群馬県立近代美術館/新潟県立万代島美術館 |
2018年 | 「Fur Story」 Leeds Arts University(イギリス)、「ハンターギャザラー」秋田県立近代美術館 |
2020年 | 「ちゅうがえり」アーティゾン美術館 |
2022年 | 「みる誕生」高松市美術館/静岡県立美術館 |
2024年 | 「鴻池朋子展 メディシン・インフラ」青森県立美術館 |
主なグループ展
2006年 | 「THE SCARECROW」Averoff Gallery of Modern Art(ギリシャ)、「PHOTOESPANA-NATURALEZA:EXPERIENCIA-」San Roman Church(スペイン) |
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2008年 | 「広州トリエンナーレ」(中国) |
2010年 | 「釜山ビエンナーレ」(韓国) |
2016年 | 「Nous」金沢21 世紀美術館、「Temporal Turn」Spencer Museum・カンザス大学自然史博物館(アメリカ) |
2017年 | 「Japan-Spirits of Nature」ノルデスカ美術館(スウェーデン) |
2018年 | 「Echoes From The Past」シンカ美術館(フィンランド) |
2020年 | 「古典× 現代2020」国立新美術館 |
2021年 | 「VIDEOFORMES」クレルモンフェラン映像祭(フランス)、「seven/seven」Fergus McCaffery Tokyo、「Story-makers」シドニー日本文化センター(オーストラリア |
2023年 | 「六本木アートナイト」国立新美術館 東京ミッドタウン |
2025年 | 2025年瀬戸内国際芸術祭2025など |
著書:『どうぶつのことば』、絵本『みみお』(青幻舎)、『焚書 World of Wonder』(羽鳥書店)など。
2016年 芸術選奨文部科学大臣賞、2020年毎日芸術賞、2023年紫綬褒章、2024年円空賞受賞。
オオカミについてアーティストに聞く
鴻池朋子さんの作品には動物がよく登場します。オオカミもその一つで、子どもの頃、近所にいた仲良しの野良犬とともに、遊びの中で人間界と自然界とをスイスイと行き来できる、同士のような感触が原型となり、異なるものや世界をつなぎ往還するイメージを投影されているそうです。
以下、本プロジェクトの 初期の作家ステートメントからの抜粋です。
「サクヤヒメの方々と最初にお会いした時、このオオカミのモチーフに通じるような親しみのある仲間、しなやかに生きてゆくエネルギー、そして熱く切実な想いのようなものが山にこだまする遠吠えのように感じました。また同時に絶滅したと言われるニホンオオカミも思いうかびました。姿形はここに無くとも何か大切な森羅万象のスピリットとして今も存在するように、女性たちが様々な分野で驚くほど重要な社会の基盤となって動き、目立たずタフに活躍している、そのサクヤヒメたちの姿がニホンオオカミと重なりました。分断し排除し破壊して争いで勝ち残ってゆくような手法ではなく、違うもの同士の間を往還し、疎遠になってしまったものを再びつないで、縫い合わせていくような手法が女性たちの身体に元々息づいているようにも感じます。
2024春 鴻池朋子(アーティスト)」
実施に向けて
当初、「オオカミ」と「女性活躍」は、到底結びつきようがない!! 驚きでした。ところが、前述の通り、知れば知るほど、鴻池さんが意図してくださった構想は、サステナブルで無限の可能性を秘めていることに気づかされます。
オオカミには、鴻池さんのイメージの他にも様々な想像が膨らみます。西洋の童話では、悪者として登場する狼も、日本では狼の語源が、大神(おおかみ)であるように、古くから畏れ慕われ、災禍から人を守る神として崇められてきました。また、オオカミは、知恵と強さを持ち、協力しながら集団生活を営む社会性を持っています。さらに、頂点捕食者であり、何人にも支配されないことなどから、オオカミが「女性活躍」という言葉から解放された世界を象徴するに相応しいと感じています。
まもなく、このオオカミたちが万博会場に登場し、私たちが目指す「女性活躍」という言葉から解放された世界、多様性を受容し誰もが幸せに生きることができる世界を表現してくれます。
今後、オオカミたちの行先や旅の様子がリアルタイムに更新されていきます。プロジェクトがリレーされ、広がっていくさまを一緒に楽しんでいただければ幸いです。
一般社団法人 万博サクヤヒメ会議